膨れ上がる社会保障費を背景に、持続可能な医療や介護の姿とは-。CBnewsは、日本医業経営コンサルタント協会とタッグを組み、医療や介護の未来像を探す連載寄稿「多事創論」をスタート。1回目は協会の広報委員会委員長を務める、一般社団法人アジア地域社会研究所代表理事の園田直則氏。
2025年に向けた「地域包括ケアシステム」に関し、中小病院と介護事業を専門とする私は、各地で講演やコンサルティングに携わってきた。その中で一貫して重視してきたのは、「地域の中で自院・自施設が果たすべき役割を明確にすること」である。医療分野では、「医師が望む医療ではなく、地域が必要とする医療」という視点の重要性が繰り返し伝えられている。
現在、診療報酬改定にも象徴されるように、病院の機能分化は一層進み、各医療機関は明確な選択を迫られている。曖昧な立ち位置のままでは存続が難しい時代に入った。実際、病院、介護施設を問わず、コロナ禍を経ても患者・入所者が戻らず、稼働率の低迷が常態化している。
しかし、このような環境下にあっても、早期に方向性を定めた組織は安定した運営を維持していることも事実である。その差は単なる制度対応ではなく、「意思決定」と「組織としての取り組み」といった本質的な要因にあると感じている。
実例を挙げる。ある特別養護老人ホームでは、開設後1年を経過しても入居率は30%程度にとどまっていた。立地条件も決して良いとは言えず、計画段階から見ても厳しい状況であった。初めて現場に入った際、私は事務長に対し「このままでは1年持たない可能性があります。それでもやり切れますか」と率直に伝えた。彼は即座に「やります」と答えた。この一言がすべての出発点であった。彼は異業種から転職してきた30代で、業界経験はなかったが、素直さと理解力、そして現場を巻き込む力を持っていた。我々の提案を単なる指示としてではなく、自らの言葉で職員に伝え、小さな改善を一つひとつ積み重ねていった。
例えば、営業活動の見直し、地域との関係構築、職員とのコミュニケーション強化など、ごく基本的なことではあるが、それを徹底して実行した。その結果、わずか半年で入居率は80%を超え、その年度内には90%台に到達した。現在も高稼働を維持している。
また、稼働率70%を下回っていた介護老人保健施設のケースでも、本質は同じであった。当初経営陣からも「この地域は競合が激しい」との意見が出たが、現場を分析した結果、問題は設備や立地ではなく、「情報の流れ」と「職員間の連携不足」にあると判断した。そこで施設長である医師と事務長を中心に、情報共有の仕組みと意思決定の流れを整理し、現場での小さな改善を積み重ねた。少し時間はかかったが、現在では93%前後の稼働を維持している。
これらの事例に共通しているのは、「トップの理解」と「現場の実行力」である。どれほど優れた戦略であっても、この二つが揃わなければ結果には結びつかない。一方で、この二つが揃えば、状況が厳しくとも組織は必ず変わる。一つ付け加えると、双方とも早い段階で、事務長と酒を飲みながら本音で徹底的に話し合い、「何が問題なのか」「何を変えるのか」を腹落ちするまで共有できたこと、そしてより多くの職員へのヒアリングを実施したことが、大きな要因であったと考えている。
今後、中小の急性期一般病院は、「地域包括医療病棟」「地域包括ケア病棟」への転換、あるいは現状維持といった選択を迫られることになる。特に「療養病棟2」や「地域一般病棟」は、早急に方向性を定めなければ存在自体が厳しくなる可能性が高い。
また、老健や特養においても建替えの判断が難しい中、設備更新にとどめながら長期運用を図るといった現実的な経営判断が求められる。ただし、だからと言って従来型のサービスを漫然と続けるだけでは展望は開けない。
最終的に重要となるのは、自組織が置かれている地域を正確に捉える視点、すなわちマーケティングと、経営陣と現場スタッフのベクトルを一致させることである。ここにこそ、生き残りの本質があると考えている。
園田直則氏
日本医業経営コンサルタント協会広報委員会委員長。一般社団法人アジア地域社会研究所代表理事
一般企業を経て1993年1月、民間病院に入職。企画渉外室長、事務部長(兼経営企画室長)を歴任し、病院や住宅型有料老人ホームなどの運営に携わりながら2000年1月、グループ会社の在宅介護サービス会社を設立。05年4月より代表取締役に就任。16年3月、同病院グループ退職。5月一般社団法人アジア地域社会研究所設立
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